上関原発建設計画に対する意見書(一部抜粋)


2002年5月10日

日本弁護士連合会



意見の趣旨

 当連合会は、2000年の人権擁護大会で「原発の新増設を停止し、既存の原発については
段階的に廃止する」ことを決議している。これは、原子力施設での事故の続発に見られる安全
性の欠如と高レベル放射性廃棄物の処分の見通しのないこと、などを理由にするものである。
 上関原発建設計画については、加えて地震や防災対策の上でも、また自然保護の点からも
重大な問題点があり、さらに周辺住民の多くが計画に反対しているなどの実情が認められる
ので、中国電力(株)による上関原発建設計画は撤回されるべきである。



まとめ

 原子力発電についての世界の潮流は大きく脱原発の方向に進んでいる。その理由は第1に
重大事故が発生した場合にはその人命、身体、経済に加えられる被害があまりに深刻で誰も
責任を取れないような損害が発生することである。第2はもっと根本的な問題であるが日々発生
する使用済み燃料・核廃棄物は膨大な量であり、かつそれを適切に処分する方法を人類は未だ
完成しておらず、全て後世に負担として押し付けていることである。これらの廃棄物は数百年から
数万年にわたって我々の後の世代に生命、身体、経済への重大な危険と負担として重く
のしかかっていく。これは世代間倫理として我々がもっとも反省しなければならない所である。
 日弁連は公害対策・環境保全委員会を中心としてこの問題に対して数十年来の取り組みをして
おり、必要と思われる時期に必要な意見表明をしてきた。その具体的な内容は、第1、1「原子力
開発に対する日弁連の立場」に述べたとおりである。
 そのような長い歴史を持つ調査・提言活動の一環として今回の上関原発問題調査も行われた。
その結果の結論は、「上関原発はその立地計画を撤回することが適切である。」ということである。
その理由は第3「上関原発計画の問題点」の1ないし7の通りであるが要約すると以下のとおり
である。

@ 原発の安全性について、日弁連は第1、1「原子力開発に対する日弁連の立場」でのべた
 とおり、数回にわたり決議や出版活動によって疑問を提起してきた。
   それら一般的な問題に加えて上関原発には強い地震が発生するおそれがあり、また岩国
 基地という航空機の離着陸が非常に多い日米両用基地があって故意・過失による航空機事故
 も考えられる。

A 原発災害発生時の防災対策上、上関町には構造的・地域的欠陥(町の中心地が島にあり
  本州と橋一本で結ばれている、急峻地が多く地震による原子力災害発生時に崖崩れ及び
  それによる道路寸断が予測される、離島が多い)がある。特に原発予定地の直近・直前
  (3km強)にある祝島は悪天候時に原子力災害が発生した場合には文字通り逃げ場を失い、
  放射能を浴びつづける恐れがある。

B 上関原発予定地の長島及びその周辺地域には豊かな生態系が発展されている。植物とし
  ては絶滅危惧T類のイワレンゲ、絶滅危惧U類のヒメウラジロ、全国的に減少傾向にある
  ビャクシン等、鳥としては絶滅危惧U類のハヤブサ、昆虫としては絶滅危惧U類のウラナミ
  ジャノメなど、海域には準絶滅危惧のスナメリ、貝類としては新種・希少種のカクメイ科の
  ヤシマイシン、ワカウラツボ科のナガシマツボ、腕足類のカサシャミセン等、原始的な魚として
  貴重な研究・保護対象であるナメクジウオなどが生息している。
   これらは自然の微妙なバランスの中で生息しており、その生息基盤は極めて脆弱であり、
  原発建設のための広大な砂浜及び海の埋立(15万u、原発サイトの約半分)、森林伐採、
  大規模建設工事等による自然破壊、原発操業による大量の取・排水(毎秒190立方メートル)
  と高熱の温排水(取・排水の温度差7℃)による影響により貴重な生態系が根本的に破壊さ
  れるおそれがある。予定地周辺の海域はいわゆる閉鎖海域であるだけに原発の建設及び
  操業による影響は一層熾烈であると考えなければならない。

C 原発建設について住民合意は成立しているとはいえない。
   上関町の町長選では原発推進派の現町長が約55%を得票しているが、反対派の候補も
  常に45%前後の得票をしているし、新聞による世論調査では反対派は上関町で46%
  (賛成派33%)、周辺市町村では58%(賛成派21%)、山口県全体では47%(賛成派
  24%)であり、反対派が賛成派を圧倒的に上回っている。

D 住民合意が成立していないことの当然の結果として用地の取得や漁業権者との交渉が
  難航している。それを反映して用地取得及び漁業権交渉の過程において無理なことや
  不透明なことが数多く行われ、それがために訴訟が続発している。

E 原発を新設しても潤うのは極く一時期であり、それを過ぎるとかえって反動のため
  経済が衰退する。原発は地域振興にならない。

F 原子力発電は割高につくということ、また原発新設はより一層割高につくということを
  電力業会全体が認めつつあり、上関原発新設は結局は電気料金の値上げ等市民の
  不利益となって跳ね返ってくる。また上関原発をどうしても必要とする電力需要があるとは
  考えにくい。

 以上のとおり、あらゆる観点から検討しても、上関原発はその立地計画を撤回することが
適切であると結論せざるを得ない。
以上



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